なぜ賃貸経営ゼロの公務員が倒産寸前の家業を年商2億円にできたのか?【後編】

〈不動産投資家実践ストーリー Vol.24 
有限会社秋田商事 代表取締役 秋田紘志〉

5.新築アパート経営成功の秘訣

編集部:話が変わりますが、新築アパートを最初に建てたのはいつごろですか?

秋田さん:2014年に土地を購入しています。2013年くらいから資金が回り始めて中古アパートを何棟か買い増ししました。売上が7,000万くらいになり安定してきたときに、公務員を退職しました。

しかし、その頃には特に都心部では、不動産の市場価格が高騰して中古アパートの利回りが新築とそれほど変わらなくなりつつありました。東京都内近郊で新築投資をしている先輩がいらっしゃるのを横目で見て、それを名古屋でやってみようと思いました。最初の新築は名古屋駅徒歩15分、重量鉄骨で利回り9.5%というものでしたが、実は、建築途中に建築会社が倒産するというトラブルに巻き込まれました。

利回りが高い分リスクがあると設計会社さんと話はしていましたが、まさか倒産するとは思いませんでしたね。その後、設計会社の社長さんに助けていただき、リカバリーすることができましたが、その設計会社さんには足を向けて寝られません(笑) その後もかなりの棟数の新築設計をお願いしています。

5,新築アパート経営成功の秘訣

編集部:新築アパートはどういう特徴がありますか?

秋田さん:新築アパートには「Le Gioie(レジョイエ)」という名前をつけています。
これは、私が大好きな名古屋の有名なレストランの名前なのです。20代の頃今の妻と一緒によくLe Gioieで食事をしました。イタリア語で誕生日祝いの歌を歌ってくれたり、行きつけのお店ができたことは20代の忘れられない思い出です。

私のアパートは「若者を応援したい」という思いを込めて作っています。私にとってのLe Gioieのように20代の素敵な思い出の場所となることを切に願って企画しています。

とはいえ、これまでのアパートは、アクセントクロスを使ったりキッチンの天板を人造大理石にしたりする程度でしたが、ようやく次の2020年1月に完成するアパートにはその想いが色濃く反映されます。

プロのデザイナーに依頼し、よりクオリティが高い部屋をデザインしてもらっています。間接照明や、バーカウンターを設置したり、コンセントプレートひとつまでこだわって外観とあわせて全体のイメージを統一したデザインになっています。かなりお金もかけており、今はその完成がとても楽しみです。

そしてこのタイミングでレストランLe Gioieさんに正式に名前の使用許可をお願いして快諾いただきました。

編集部:デザインのクオリティは重要ですか?

秋田さん:はい。ちょっと話が変わるのですが、名古屋駅の最初の新築アパートで民泊施設の運営をはじめました。その時に、家具だけでなく、内装、設備と調和するように工夫をしてインテリアデザインをしたところ結構好調だったのです。

それでデザインの重要性を認識したのです。自分でちょっとした工夫をしただけでも好評なのであれば、プロの力を借りたらどうなるのか試したくなりました。コンセプトという魂を込めたアイデアに、プロによるデザインが反映されることで強い商品ができることを実感したのが、戸建旅館SAMURAI HOUSEです。

そのアイディアをアパートにも活かしたものが今度完成するLe Gioieです。
ただ、単純にデザイナーに依頼すればいいというものではなく、施主に入居者の心を捉える想いがあり、その想いをコンセプトにまとめ、適切な言葉で表現できること。そしてそれを適切にデザイナーに伝えることができる必要があると思います。それが実現できたときには、強い商品が出来上がると信じています。お客様にどんな感情になってほしいか、という具体的なことまでイメージしています。

6.観光に商機を見出し生まれた戸建貸切旅館「SAMURAI HOUSE」

編集部:ところで、およそ10年愛知県庁に勤務し、愛知万博の運営というお仕事に携わる中で、「観光」にビジネスチャンスを感じたということですが、具体的にどんなチャンスがあると思われたのでしょうか?

秋田さん:日本の人口の減少が続くことが予想される中、観光の振興っていうのは結構大きな役所のテーマだったのです。

当時は世界遺産が注目されつつある時期でした。世界遺産が一つできると100万人単位で観光客が増えるのです。観光は儲かるということで注目されていました。

例えばサミットを誘致してそのエリアが毎日新聞やテレビで報道されると世界各国で認知度が上がって観光客が増えるという効果があります。最近だと、G7の伊勢志摩サミットやG20の大阪サミットが開催されましたが、それが観光振興と深く結びついているということを学びました。

政府主導のビジットジャパンキャンペーンなど、観光立国に向けて国や自治体が全力でサポートしていく業界なんだということがチャンスだと思いました。

編集部:そのときにはすでに民泊や旅館施設を運営する構想はあったのですか?

秋田さん:そのときはまだありませんでした。まずは不動産に興味があったので、最初の頃は万博会場周辺で公共投資が入るとどれくらい地価が上がってくのだろうという目線で見ていました。
結果は、民間投資もどんどん入っており、この15年で街が変わってしまいました。さらに官民あわせたジブリパークの計画があり、2022年の完成以降は、ますます地価の上昇が見込まれます。
大型な公共投資や民間投資が入る場所は狙い目なのでよくチェックしています。

編集部:戸建型旅館「SAMURAI HOUSE」 https://samurai-house.com/ をすでに2棟運営されていますが、この構想はどのようにできたのですか?

秋田さん:新築アパートの企画と同時に、戸建旅館の「SAMURAI HOUSE」の構想が出来上がりました。不動産のスキル、民泊・旅館運営のスキル、英語、と得意なものを掛け合わせて活かせるのでこの旅館業は集大成みたいに感じています。ライフワークみたいな感じでしょうか。大好きなビジネスです。

また、2027年には品川、名古屋の間にリニアが完成します。そのため、リニアの駅ができる名古屋駅の西側が急速に開発が進むことが予想できました。2005年の愛知万博の時には、エリアの発展ぶりを指をくわえて見ているしかありませんでしたが、今度こそ自分も参加したい、という思いで全速力で動きました。おかげさまで名古屋駅エリアに現在、旅館・アパートを含めて9棟ほどに広げることができています。全て土地からの新築案件です。


編集部:「SAMURAI HOUSE」はどういったコンセプトですか?

3棟から成る戸建型旅館です。外国の方に喜んでもらうつもりで企画したので和風がテーマです。場所は名古屋駅ですから、この地にゆかりのある天下統一を目指した3人の武将をイメージしてSAMURAI HOUSEと名付けました。SAMURAI HOUSE Ⅰのイメージは織田信長、Ⅱは豊臣秀吉、Ⅲは徳川家康です。

織田信長が天下統一を夢見て、豊臣秀吉が天下統一を実現して、徳川家康が300年以上に渡る天下泰平をもたらした。そんなストーリーです。

SAMURAI HOUSEをⅠからⅢまでグレードアップしていき、名に負けぬよう天下統一(全国展開)を夢みています。SAMURAI HOUSEⅠ・Ⅱはすでに稼働していて、Ⅲは建築中です。(2019年10月現在) 

編集部:コンセプトはどういった形で反映されていますか?

デザインを通じて体現されています。それぞれの武将のエピソードから連想される色をベースに全体の調和を考えデザインされています。Ⅰは織田信長の情熱的なイメージで赤がベースになっています。Ⅱは豊臣秀吉が天下統一したときの華やかなイメージで黄色をベースに。Ⅲはまだ完成していませんが、徳川家康のイメージを表す色使いを考えています。

それから、床の間にそれぞれの武将が使った鎧兜を設置しています。

編集部:ターゲット客は海外の方ですか?

秋田さん:はい。主な利用客は海外旅行の外国人を想定しました。実際の利用状況は外国人80%、日本人20%くらいの比率です。蓋を開けてみて日本の方もこういうものを求めているのだなと言うことを感じました。

たとえば、都心にあって、4〜7人で宿泊できる宿泊施設が求められているのだということがわかりました。

「SAMURAI HOUSE」は1Fがリビングルームで、2Fがベッドルームになっています。たとえば2組のファミリーで宿泊する場合に2Fで子供を寝かしたあとに、1Fリビングで大人が集まってコミュニケーションを楽しむことができます。

僕はよく息子と旅行に行くのですが、都会のビジネスホテルだと、ベッドから落っこちるかも、とか、泣いたらどうしようとか気を使うことが多くて不便だなと感じていました。じゃあ、民泊に泊まろうと思ってもクオリティの高いものが少ない。

それなら作ってしまえ、となったのが「SAMURAI HOUSE」です。ホテル並みのアメニティや設備があり、プロが清掃した清潔でクオリティが高いデザインの施設を利用できるということを実現しています。

編集部:予約フォームを見ると、かなり先まで予約が入っていますね。

秋田さん:おかげささまで「SAMURAI HOUSE」ⅠもⅡも半年先まで予約をいただいたりと、お客さんには喜んでもらっていると思います。評価、稼働率ともにかなり高いです。

編集部:デザイナーは、以前からお付き合いがある方ですか?

秋田さん:いいえ。大阪で民泊施設を運営しているオーナーの部屋を見学させてもらったのですが、その部屋のデザインが気に入ったのです。その部屋をデザインしたデザイナーさんを紹介してもらって相談しました。話をしていてすぐに相当な実力のある方だとわかりましたのですぐに仕事をお願いしました。

7.地域を代表する中小企業を目指す

編集部:少し話が変わりますが、独立当初どのような目標がありましたか?

秋田さん:3つありました。1つは「年間売上を1億円以上にする」2つ目は「返済比率を35%以内にすること」3つ目は「年間売上分のキャッシュを保有すること」です。

編集部:その目標は達成できましたか?

秋田さん:これは2016年に達成しました。今は売上10億を目標にしています。なぜ10億かと言うと、大前提として「規模は力である」と考えています。

銀行の方などは、私の商圏ですと売上10億円くらいが地域を代表する中小企業として認められる規模感だと聞きます。今の売上高は約2億円なので、まだまだ時間はかかりますが、実現に向けがんばっています。

また、私は役所に勤めていたこともあって地域貢献ということも考えています。具体的には私の商圏の世帯数を増やすことが地域活性化に繋がると考えています。

アパート経営で売上1億円を実現するには100室くらい必要ですので、売上10億円にするためにはおよそ1,000室必要です。

少なく見積もっても1世帯あたり家賃や生活費を200万円は使います。1,000世帯になれば20億円の経済効果を生むことになります。これは私が住んでいる愛知県豊山町の予算の何割かに匹敵する規模になるわけですから、実現すればそのエリアに相当な影響力を持つことになります。

それだけの世帯に住居を提供するには、当然それなりの責任が発生します。私が今まで提供してきた賃貸経営のノウハウを活かせば、他の大家さんより快適で良い住居を提供できて、多くの人から選ばれるという確信があります。

それから、観光が私のルーツなのでこちらにも力を入れていきたいと思っています。「SAMURAI HOUSE」は1棟あたり年間約1,000人の客に利用されています。日本中に「SAMURAI HOUSE」のような宿泊施設が増えればかなりの経済効果を生むことになりますから地域振興につながります。社会問題となっている空家問題にも貢献していけたら面白いなと思っています。

まとめると、「Le Gioie」というアパートと、「SAMURAI HOUSE」という宿泊施設2つの柱で街をつくることがミッションで、それを通じて年商10億円を実現することが目標です。

8.これから始める人へアドバイス

編集部:これから賃貸経営を始める人に「マインド」「知識」「行動」3つの観点からアドバイスをいただけますか?

秋田さん:マインドは「追い込まれちゃえ」っていうことですね。人は追い込まれないと本気で行動しないと思います。私の場合は、4億円の借金を抱え、名古屋空港の移転で売上ゼロになった父親の事業をなんとかしなければいけないというところに追い込まれました。そして父が所有していた不動産を活用して事業を再生することに集中できました。

私の場合は公務員でしたので、父親の不動産を売却して公務員を続けるという選択肢もありました。でも安定よりチャレンジを選びました。公務員時代も今もやっていることは同じ「街づくり」ですが、より直接的に地域貢献できる、やりがいある仕事を手に入れることができたと思います。

もし未来を変えたいならば、現状を変えていく必要があります。時間は有限なので、どうせなら早く一歩踏み込んでチャレンジすることで未来を拓いていくことをおすすめします。困難を乗り切ったら、それがそのまま食っていく力になります。

編集部:知識の面ではいかがですか?

秋田さん:今は賃貸経営や不動産投資関連の書籍が沢山出版されていますし、ネットでも情報が得られます。そういうものを読んで勉強することはもちろんですが、大家の会に参加したり、実際に不動産を買っている人のコミュニティに身を置いてリアルに刺激を受けることがいいと思います。

私は、長い間一人で孤独にやって来ましたが、大家のコミュニティに入ってからは、仲間ができて成長が加速しましたし、精神的にも安定しました。

編集部:不動産を買っている人のコミュニティに入ることの他に行動でだいじなことはありますか?

秋田さん:資金づくりです。賃貸経営を始めるには自己資金が必要です。自分のスキルを総動員して自己資金をつくることが重要ですね。最低でも500万円〜1,000万円を作る行動力が必要です。そして、まずは区分でも戸建てでもなんでもいいので一棟買うことです。実際に物件を持ってみると、全て自分ごととして捉えることができるようになります。入ってくる情報の質も量も変わります。

編集部:最後に、お父様は今なんとおっしゃっていますか?

秋田さん:いまは「ありがとう」「もうおまえの好きなようにやってくれ」と言っています。毎日ボランティアや農業をしながら好きなゴルフを楽しんで悠々自適に暮らしています。

編集部:ありがとうございました。

インタビュー実施2019年10月

戸建て貸切旅館「SAMURAI HOUSE」

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