「所有者不明土地」とは?
現状、不動産の相続登記義務がないため、登記の手間や費用の問題、相続協議がまとまらないなどの理由で、登記されないまま放置されるケースが多くなっています。不動産の相続登記が行われないことで、「所有者不明土地」が発生し、近年その数は増加しています。国土交通省によれば、所有者不明土地とは「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない、または判明しても連絡がつかない土地」と定義されています。所有者不明土地の増加により、所有者の探索に多大な時間と費用を要するなど、土地の円滑・適正な利用に支障が出ています。また、不動産所有者の住所変更登記も義務ではないことから、住所を移転しても不動産登記簿に反映されないという問題も発生しています。こうした問題で、不動産の所有者がどこにいるのか、生存しているのかもわからないという問題が発生しています。
「所有者不明土地」の増加が引き起こす問題
その結果、国や自治体が災害対策工事のため公共用地として土地を取得したいのに、所有者が不明で工事を進めることができないといった事態が起きています。民間でも、新しい街づくりのため土地を取得したい場合に、空き家の所有者が不明で一部の土地を取得できず、そのエリアのポテンシャルをフルに活用することができないといった問題も起きています。今後相続が繰り返される中で所有者不明土地問題はますます深刻になる恐れがあります。
相続登記をしないと10万円以下の過料も
政府ではこうした問題を解決するために、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案に基づき法改正を行っています。2021年3月に改正案が閣議決定され、国会で成立後、2023年度に施行される予定です。改正点は大きく3つあります。まず、相続登記の義務化です。相続で不動産取得を知った日から3年以内の登記・名義変更が義務化され、登記が行われない場合、10万円以下の過料の対象となる見込みです。2つ目は、相続人申告登記(仮称)の新設です。遺産分割協議がまとまらず相続登記ができない場合に、相続人であることを申告することで、遺産分割協議がまとまり、不動産の所有権を取得した後で登記できるようにする制度です。3つ目は不動産所有者の住所変更の義務化です。不動産所有者が住所変更した場合も2年以内の登記が義務化され、登記されない場合は5万円以下の過料の対象になる見込みです。
不動産登記事項証明書で登記事項のチェックを
不動産の相続が発生した場合、速やかに登記手続きを行いましょう。ご親族から不動産の相続が発生した場合、煩雑な手続きや費用負担の問題から登記手続きが後回しになりがちです。しかし、今後は3年以内に登記手続きを行わないと10万円以下の過料という重いペナルティが課せられてしまいます。数年前に相続し、空き家のまま放置されている住宅や土地がある場合は、不動産登記事項証明書を取得し、相続登記が行われているか確認することをおすすめします。また、万一、ご自身のご両親が保有する不動産が先祖代々登記されていないなどで所有者が得的できない場合、できるだけ速やかに正しい所有者を登記簿に反映させる必要があります。最後の登記から長い時間が経過している場合、相続人の数が多く、すでに生存していない場合も多く、相続登記完了まで長い時間と多額の費用がかかる場合もありますので、早めに不動産登記事項証明書を確認することをおすすめします。
「特定空き家」に指定されると固定資産税が6倍に
また、2015年5月に施行された「空き家対策特別措置法」の規定によって、1年以上使用されていない家屋は、水道・電気・ガスの使用実績や人の出入りの有無などの状況により「空家等」に指定されます。さらに、次の4項目に該当する場合、「特定空き家」に指定されます。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
- 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
「特定空き家」に指定されると、自治体から「特定空き家」となった原因を改善するように指導されます。指導に従わない場合勧告され、それでも状況が改善しない場合は、固定資産税の優遇措置がなくなり、6倍の固定資産税が課せられます。場合によっては、罰金が課せられたり、行政代執行手続きにより強制的に措置が取られることがあります。
相続物件を売却すると譲渡所得から最高3,000万円控除の特例
また、相続物件を売却する場合は、要件に当てはまる場合「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」が適用される場合があります。これは、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に、相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋またはその敷地等を売って、一定の要件に当てはまる場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる特例です。要件は次の3つです。
特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続開始位の直前に被相続人が住んでいた家屋で、次の3つに当てはまるもの。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物が登記されている建物でないこと
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
特例を受けるには、特例の対象となる「被相続人住居用家屋」及び「被相続人居住用家屋の敷地等」に当てはまるかを確認する必要があります。また、売買の内容が特例を受けるための適用要件を満たしているかどうかを確認する必要がありますので、相続に詳しい司法書士と連携している不動産会社へ相談することをおすすめします。