<不動産投資家実践ストーリー #5> 安藤しげきさん
【この記事のPOINT】
今回の不動産投資家実践ストーリーは、元不動産会社で不動産売買にたずさわっていた方の登場です。安藤しげきさんは10年間不動産仲介業者に営業としてたずさわった後、ご自身も2014年から不動産投資家として活動されています。現在は投資物件を5棟45室所有し、年間3,500万円の家賃収入を得るまでに事業を拡大。会社員を卒業し、専業大家さんとして活動されています。今回は、元不動産業者と不動産投資家双方の視点から、通常はなかなか聞けない貴重な不動産投資実践ストーリーを語っていただきました。
1,不動産投資に失敗した「不動産凍死家」の現実
編集部:安藤さん、今日はよろしくおねがいします。
早速ですが、安藤さんは元不動産業者で不動産の売買にたずさわっていたということですが、どういったきっかけでご自身も不動産投資をはじめたのですか?
安藤さん:はい。不動産会社でマイホームを購入されるお客様への営業をやっていましたが、日々お客様と接しお話を聞いていく中、ふと自分の将来を考えました。
たとえば、突然事故にあったら動けなくなります。そんな事態になったら収入が途絶えますから怖いですよね。営業ですから、営業成績によって収入が変わります。幸い当時営業成績はよかったのですが、それをずっと続けけられる保証はどこにもありません。その上老後のことを考えれば、年金にはまったく期待できません。今は65歳から年金が支給されますが、それが70歳や80歳に延長される可能性もあります。そういう不安が頭をよぎり、「本業以外になにかお金を稼ぐ道を作らなければ」と焦りました。自分にできることはなにかと考えたときに、自分がいちばん詳しいことで、長くたずさわっている不動産を副業の一つとしてやってみようと思ったのです。
編集部:ありがとうございます。一番詳しいことで副収入を得ようとお考えになったわけですね。不動産業界でお仕事をしていると、周囲で不動産投資に失敗してしまうひとたちを目のあたりにすることもあったのではないかと思います。安藤さんの著書、『不動産凍死しないための大家の投資の教科書』のなかで「不動産投資に失敗している方」を「不動産凍死家」と呼んで、具体的な事例と「不動産凍死家」にならないための方法を提案されています。このポイントをまとめていただくとどういうことになりますか?
安藤さん:そうですね。まず、「不動産凍死」とはどういう状態を言っているかというと、たとえば、地方の利回りが低い一棟マンションを、諸経費まで含んだ高金利のオーバーローンで購入して失敗しているケースです。
イールドギャップ(利回りと金利の差)が小さいため、最初からキャッシュフローが少なく、空室率が上がるとキャッシュフローがマイナスになってしまいます。その上積算重視で購入した古い物件の場合、修繕費がかさみます。そういう物件は売却も難しい場合が多いです。安い金利の融資に借り換えができればリカバリーできる可能性がありますが、借り換えができなければ、負の資産を持ち続けなければならないことになります。こういう状況に陥っている人を「不動産凍死家」と読んでいます。
2,こんな人が「不動産凍死家」になりやすい
編集部:なるほど。「キャッシュフローがマイナス」「修繕費がかさむ」「売却も難しい」。そういう状態に陥って「フリーズ」してしまったような状態ということですね。「不動産凍死」してしまう人には共通点のようなものがありますか?
安藤さん:はい。3つくらいのパターンがあります。
ひとつは、「勢いで不動産投資を始めている」ということです。会社の業績が悪くなってきていつクビになるかわからない。長時間労働があたりまえ。昇給や昇格が見込めなくなっている。こういったひとたちが本業以外に収入を求めるんですね。そして不動産投資に関心を持つ。そして、あまり勉強しないまま不動産業者主催の不動産投資セミナーに参加して、営業担当者に言われるがまま物件を買ってしまう。その物件は収益性が低い物件だったことに後で気づくということが多いです。
ふたつ目は、意外かもしれませんが、比較的高属性の人たちが多いです。年収1,000万以上の会社員や医師、公務員といった人たちです。こういう方々は、ある程度の不動産投資の知識がありますし、そもそも優秀な方ですから、「自分は騙されるはずがない」と思っている方が多いように思います。こういう方々は本業が忙しいので、投資物件購入前に必要な調査や試算をやらなかったり、不動産業者やコンサルタントに任せてしまうことが多いんです。その結果収益性が低い物件や試算価値が低い物件であることに気づかないで購入してしまうこともよくあります。
ただ、業者は騙しているわけではなく通常の営業活動をしているだけなんです。売っている物件は数多くあります。その中には、「著しく収益性が低い物件」や「資産価値が低くて将来破綻する可能性が高い物件」も含まれているということなのです。
3つめは、焦って物件を購入しようとしている人です。いい物件はどうしても競争になりますから、自分が買付け申し込みをしたときには、すでに何人かが申込みをしていたということがよくあります。二番手・三番手になってしまうと買える確率は低くなりますので、なかなか買えないということはよくあるんですね。そこで「とにかく物件を買いたい」と焦ってしまって、自分の購入基準から外れたものを買ってしまう。そして、収益が得られなくなっている方も多いです。
3,「不動産凍死家」にならないための3つの心得
編集部:なるほど、「勉強不足」と「過信」と「他人任せ」と「焦り」大敵というところですね。
ではこういうことを回避するためにどうしたら良いとお考えでしょうか?
安藤さん:まず、「勢いで不動産投資をはじめる」ということについてですが、これはもう「まず勉強してください」ということになります。不動産投資の知識不足、情報不足が失敗の大きな原因になります。何を勉強すればいいかというと、まずはできるだけたくさん不動産投資関連の本を読むことです。本以外に不動産投資関連の情報サイトで勉強したり、実績がある先輩大家さんが販売している教材で学んだり、セミナーに参加したりするのもいいですね。できるだけ雑多に情報に触れておいたほうがいいと思います。
それから2つ目ですが、上場企業の社員や医師、公務員などで年収1,000万を超える、いわゆる「高属性」の方は、有利な条件で融資を引きやすいので、悪徳業者から狙われやすいです。また、本業が忙しいので、つい不動産業者やコンサルタント任せにしてしまうということもあるようです。
忙しくても、できる限り時間を作り自分で勉強して、物件の調査や収支シミュレーションを自分で行うことが大切です。
3つ目は、焦って物件を買ってはいけません。なかなかいい物件が買えずにいるときに、知り合いの不動産投資家がスムーズに物件を買っているという話を聞いたりすると、自分だけがうまく行っていないような気持ちになるものです。そういう状況に陥ると悪徳業者に隙を狙われる可能性があります。実際に少し前にニュースを賑わせた某銀行のスキームで買ってしまった人たちは、買えない状況を打開しようとして業者に丸め込まれたケースが少なくありません。購入基準を明確にしてその条件を満たす物件に巡り合うまで辛抱強く待つことがだいじです。
4,月間キャッシュフロー50万円を目指すロードマップ
編集部:ありがとうございます。高属性の人ほど狙われやすいというのは驚きです。少し話が変わりますが、たとえば、上場企業の管理職クラスの方で、年収700万円、自己資金が500万円くらいある方が、まずは月間キャッシュフロー50万円を目指したいという目標を立てた場合、安藤さんなら具体的にどういった方法を提案されますか?
安藤さん:はい。家族構成や今の居住形態によって違いますが、やり方は2種類あると思います。ひとつは、今賃貸住宅に住んでいて、家賃を15万円くらい払っている人の場合です。
その場合は、賃貸併用住宅を建てて家賃負担をなくしてから、自己資金を回復させて次の物件を買うというやり方です。
都心部ではなかなか難しいですが、東京の周辺部や地方ならできる可能性があります。たとえば、2階建てアパートで、1F部分は1K×3室、2F部分は住居という物件を建築します。こういう床面積の1/2を自己居住用にした物件を建てる場合、いまは住宅ローンが使えます。土地込みの価格で5,300万円くらいだと、ローン返済額がだいたい15万円です。賃貸で家賃として払っていた金額と同じくらいですね。
貸す部分の1Kの家賃は一部屋7万円と設定した場合、家賃収入は月間21万円ですから諸経費を差し引いて1万円くらいのキャッシュフローが残ります。家賃負担はなくなるわけですから、その分を貯蓄して自己資金を回復させ、次の物件を取得するという流れですね。
もうひとつは、いま家賃負担がそれほど大きくないところに住んでいる場合です。私なら、その場合500万の自己資金で買える一棟アパートを買います。今は金融機関が不動産投資物件に対する融資を締めていますから、まず自分がどの銀行からいくら借りられるかを知ることが先ではありますが、仮に物件価格の2割の自己資金が必要とした場合、500万円の自己資金だと2,000万円くらいの物件が買えます。まずは2,000万円で一棟アパートを購入して、キャッシュフローを貯めて自己資金を回復させて次の物件を購入するという方法もあります。
その後月20万〜30万円のキャッシュフローを目指して、段階的に6,500万円〜1億円くらいの物件を買う戦略を立てますね。
新築木造も狙い目だとおもいます。新築プレミアムと言って、相場より少し高い家賃設定ができますし、修繕費がかかりません。日本人は新築好きな人が多いので、やはり新築は競争力があります。
利回り8%で1億円買えれば、年間800万円になります。金利2%、35年返済で融資を受けられれば、返済額が年間およそ396万円、固都税36万円くらいで、管理費5%とすると年間キャッシュフロー328万円です。自分で土地からプランニングすればもっと利回りが上がります。こういう方法が良いと思います。
先ほどの例ですと、ここまでで月間キャッシュフローは、だいたい27万円です。切りよく25万円とした場合、あと75万円で、年間900万円です。年間キャッシュフローはだいたい物件価格の2〜3%くらいですから、900万円得るには3億円の物件があればいいわけです。
最初に新築物件を買った場合、1年後高積算物件を買います。その2棟から入るキャッシュフローをしっかりと蓄えておきます。
そしてその翌年、2棟の運営実績と貯めたお金を使って3棟目を買います。これも積算評価を重視したほうが、4棟目で融資に取り組んでもらえる銀行が多くなる可能性が高いです。ただ、積算評価が高いということは、築年数が古目のRC造であることが多いです。古い物件は修繕リスクが高いことや、売却しにくいということで、最終的な出口のリスクがあります。ですから、高積算物件だけに絞らず、新築木造アパートも交えて交互に買っていくところがポイントです。
私は新築アパートだけ買ったほうがリスクは少ないと思っています。しかしこの投資法は金融機関の評価に依存するところが大きいので、高積算物件を織り交ぜていくと融資を受けやすいかもしれません。
あとは、買った物件を売って収益を得るという方法もありますが、これはプロでなければ難しいので考えないほうがいいかもしれません。……続きを読む
■安藤しげきさんの著書
『不動産凍死しないための大家の投資の教科書』