不動産投資も不動産経営とも呼ばれる投資なので、「投資の効率性・安全性」を理解しなければいけません。それらの点を理解することで、真に収益性がある物件かを判断できます。今回は、そんな投資の効率性・安全性を測る指標を解説していきます。
●投資効率性
投資効率性を測る指標は以下の通りです。
・総収益率(実質利回り)
・ローン定数
・イールドギャップ
・自己資本配当率
・自己資本回収年数
○総収益率(実質利回り)
総収益率とは以下の計算式で算出され、FCRとも呼ばれます。
・FCR(総収益率)=NOI(NET収入)÷購入総額(売買代金+諸費用)
NOIは空室率や固定資産税や管理委託費用などの「物件運営費用」を加味した金額なので、その物件から得る「純収益」になります。要は、その物件の購入総額を何年で回収できるか?という指標が総収益率です。
○ローン定数
ローン定数(K%)は以下の計算式で算出されます。
・K%=年間返済額÷ローン残高
年間返済額は、毎年返済額が変わらない元利均等返済を選択しているという前提です。つまり、ローン定数とは年間のローン総返済額が、ローン残高に対してどれくらいの割合になるか?を算出している指標になります。
ローン定数を算出するメリットは、金利だけでなく返済期間も含めた融資条件全体を総合的に比較することができる点です。
○イールドギャップ
イールドギャップとは以下の計算式で算出されます。
・イールドギャップ=借入金利-投資物件の利回り
単純計算でいくと、利回り10%の物件を融資金利3%で購入すれば、イールドギャップは7%(10%-3%)という計算です。
いくら物件利回りが良くても金利が高ければイールドギャップは小さくなります。そうなると、その物件から得られる収益も小さくなるということです。
ただし、不動産投資におけるイールドギャップは、返済期間も加味しないと正確な数値は算出できません。
◎ローン定数も加味する必要がある
たとえば、以下のような物件があったとします。
・物件価格:3,000万円
・年間家賃収益(NOI):240万円(実質利回り8%)
・借入金額:2,700万円
・借入金利:3%
・返済期間:10年
前項の定義でいうと、上記の物件のイールドギャップは5%(8%-3%)になりますので、一見投資対象としては良い物件に思えます。しかし、実際はこちらに上述したローン定数を加味する必要があるのです。
◎ローン定数を加味する
ローン定数を加味したイールドギャップということは、「実質利回り-K%」という計算になります。前項の物件は、年間ローン返済額が約313万円です。そのため、K%は「313万円÷2,700万円=11.5%」になります。
つまり、この物件の真のイールドギャップは「実質利回り8%-11.5%=-3.5%」ということです。少なくともローン返済が終わるまでは、赤字が続く可能性が高いので、キャッシュフローを考えると投資対象物件とはいえないでしょう。
○自己資本配当率
自己資本配当率とはCCRとも略され、計算式は以下になります。
・自己資本配当率=CF(キャッシュフロー)÷自己資金
CFとは手元に残るお金のことであり、自己資本配当率はいかに自己資本(≒自己資金)で効率よくCFを生み出すか?を算出する指標です。
◎フルローンを組んで物件を購入
仮に、以下のようにフルローンを組んで物件を購入したとします。
・物件価格:3,800万円
・諸費用:220万円
・自己資本:220万円(諸費用のみ)
・借入金額:3,800万円(金利2.5%、借入期間25年、元利均等返済)
・年間家賃収入:380万円
・年間総支出(ローン返済額含む):300万円
・CF:80万円
この場合、自己資本配当率は「CF80万円÷220万円=36.3%」になります。
◎頭金を物件価格の50%
一方、頭金を物件価格の50%入れた場合は以下になります。
・物件価格:3,800万円
・頭金:1900万円
・諸費用:170万円(ローン保証料が減額)
・自己資本:2070万円(諸費用のみ)
・借入金額:3,800万円(金利2.5%、借入期間25年、元利均等返済)
・年間家賃収入:380万円
・年間総支出(ローン返済額含む):198万円(返済額102万減額)
・CF:182万円
この場合、自己資本配当率は「CF182万円÷2070万円=8.79%」です。確かに、頭金を入れることで諸費用も減りますし、年間創出も減るのでCFは増えます。
しかし、自己資本から効率的にCFを生み出すという観点では、融資に頼った方が効率良く収益を上げられるのです。
○自己資本回収年数
自己資本回収年数の計算式は以下です。
・自己資本回収年数=自己資本÷CF
その物件に投下した自己資本を何年で回収できるか?の指標です。これも前項の2例を利用して算出してみましょう。
頭金ゼロのフルローンの場合は「220万円÷80万円=2.75年」で、頭金50%の場合は「2070万円÷182万円=11.3年」かかります。年数が低いほど自己資本を回収できるので、CFが黒字でればそのまま自分の真の収益(ポケットに入るお金)になるということです。
●投資安全性指標
投資安全性を測る指標は以下の通りです。
・キャッシュフロー比率
・借入償還比率
・損益分岐点
・借入金比率
・自己資本比率
○キャッシュフロー比率
キャッシュフローは以下の計算式になります。
・キャッシュフロー比率=キャッシュフロー÷物件取得価格
仮に、キャッシュフローが80万円、物件取得価格が2,800万円であればキャッシュフロー比率は2.85%です。キャッシュフロー比率の場合、総支出を加味した比率なので、表面利回りよりも確からしい数値になります。
○借入償還比率
借入償還年数は「ローン残債÷(CF+減価償却費用)」で算出されます。要は、現在のCFで借入金を完済するまでの年数を測る指標です。
仮に、ローン残高が3,000万円で「CF+減価償却費用」が200万円であれば、「3,000万円÷200万円=15年」という計算です。
借入償還年数が短いほど、理論上は減価償却費用を加味したCFにて短期間で完済できるということなので、不動産投資の安全性は増すでしょう。
○損益分岐点
不動産投資に置ける損益分岐点はCFを基に考えます。たとえば、上述した以下の物件を例にします。
・物件価格:3,800万円
・諸費用:220万円
・自己資本:220万円(諸費用のみ)
・借入金額:3,800万円(金利2.5%、借入期間25年、元利均等返済)
・年間家賃収入:380万円
・年間総支出(ローン返済額含む):300万円
・CF:80万円
上記のように、CFが80万円なので、家賃収入が80万円下落するポイントが損益分岐点です。それは、稼働率が78.9%まで下がれば損益分岐点ですし、家賃が21.9%下落しても損益分岐点ということです。
また、経費額が80万円増額しても損益分岐点といえるので、色々なパターンで損益分岐点を計算しておくことで、投資の安全性は増します。
○借入金比率
借入金比率は以下の計算式で算出されます。
・借入金比率=毎月返済額÷満室時の毎月の家賃収入
上記のように、毎月の家賃収入のうち、毎月の返済額はどのくらいか?を算出しています。数値が低いほど返済額の割合は小さいので安全といえるでしょう。
○自己資本比率
自己資本比率の求め方は以下の通りです。
・自己資本率=自己資本÷(借入金+自己資本)
仮に、300万円の自己資本+2,400万円の借入金で物件を取得したら「300万円÷(2,400万円+300万円)=約11.1%」が自己資本率です。自己資本をどのくらい投下したかを表す指標であり、自己資本比率が低いほど自分が拠出した金額が小さいです。
ケースバイケースではありますが、自己資本比率が小さい方が手持ち資金を潤沢に残せるので、予期せぬ支出にも対応できます。そういう意味でも安全性を測る指標なのです。
●まとめ
このように、不動産投資の効率性や安全性を測る指標はたくさんあります。いずれも、仕組みを理解すれば簡単な指標ですし、機械的に算出できる指標です。これらの指標を活用し、収益性の高い物件を選定しましょう。